改めて、チョ・グク問題とは何なのか

チョ・グク氏の法相任命から少し日が経ち、日本での報道も少しは沈静化しているかと思う。本来であれば、他国の不正疑惑よりも上野宏史議員の口利き疑惑を報じるべきだと思うが、今のマスコミにはそんな気概はないのかもしれない。


ただ、よくチョ・グク問題については色々な方から質問を受けるので、今回は簡単に私の考えをまとめておこうと思う。


まず、日本の報道はこの問題をムン政権の反日姿勢と強引にでも絡めて書きたがる節があるが、それは筋違いだと思う。着目すべきは、来年4月に総選挙を控えたムン政権がさしたる実績を挙げられていないことへの焦りである。


なぜ実績が挙げられていないと言えるのか。ムン氏が大統領選挙の際に掲げた公約から紐解いてみたい。ムン氏の掲げた10個の公約のうち、1から3番目に挙げられた中心公約は以下の通りだ。


①雇用拡大(最低賃金を時給1万ウォンにすることを含む)

②政治権力・権力機関改革(その中心政策が検察改革)

③反腐敗・財閥改革(パク・クネ/チェ・スンシル調査特別委員会設置含む)


①については、最低賃金1万ウォンを守れない見通しとなったことを今年7月に国民に向けて謝罪したばかりである。失業率は8月に7月の4.0%から3.0%に改善したとはいえ、若者の雇用の安定化など、国民に実感が広がっているとは言えない。「期待はずれ」と言われても仕方のないところである。


そうすれば、優先順位②である政治権力・権力機関改革にかけるしかない。また、これは基本的に国内問題であるため、世界経済に責任を転嫁できる①に比べて言い訳もしにくい。そうなれば、②の中でその中心をなす検察改革に注力するのは頷ける。しかし今回は、この検察改革の司令塔となるべきチョ・グク氏に数々の疑惑の目が向けられた。それも、前政権を引きづりおろしたチェ・スンシルゲートに似通った構図である。つまり、ここで腐敗を認めてチョ・グクの法相任命を諦めてしまっていれば、②の政治権力・権力機関改革が頓挫しただけでなく、③の反腐敗というムン政権の大義名分もろとも足元から崩れていただろう。


日本的な言い方をすれば、マニフェストの1丁目1番地だけでなく、2番地も3番地も「諦めた/失敗した」と批判されることが目に見えているのである。日本の総理大臣であれば、政権の正統性を問うて「検察改革選挙」に打って出ることも可能だが、解散権のない韓国の大統領にそれはできない。政権にとっては引いたら負けのゲームである。


それを考えれば、国論が二分されてでも法相任命を強行したことは想定内の判断だったと言えるだろう。しかし政権にとっては、実際はここからが正念場である。来年4月の総選挙に向けて、何を実績にできるか。今回の疑惑はどこまで尾を引くのか。じっくりと見ていきたい。

政治がどんなに騒がしくても、季節は変わる。秋風の気持ちよいソウルである。

永井宏志郎事務所(Koshiro Nagai Office)

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